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「世相2015-2016」 199501170546-6 須磨の海

「須磨の海」

5月のある晴れた日
破壊された神戸の町を歩くのに疲れ
突然須磨の海が見たくなった
路地塀ぞいに小型の作業船が並ぶ
昔ながらの漁師町に迷い込み
線路下の架道橋を抜けると
海辺の景色が視界いっぱいに広がった

空は青く高く水平線まで広がり
海はのたりのたりまどろんでいる
街中の重機やダンプカーの騒音は退き
マスクが必要な粉塵や砂埃や土壁のにおいも
ここまでは届かず
被災地とは無縁の平安があった

波打ち際に向かって歩を進めるうちに
靴を脱ぎすて靴下を剥ぎとり
裸足になった私は
両手を挙げて海へと走った
   わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
無人の浜辺に私の絶叫が響く
波に足をとられても走り止めず
膝が水を押しかえせなくなって立ち止まり
私は服を着たまま仰向けに倒れた
空を映す瞳の上を海水が流れ去り
磯の匂いが鼻を刺した
震災後はじめて上げた大声
全身濡れそぼった私
涙のようなものと海水が混じった

砂浜に腰をおろし
暖められた砂に両手を差し入れ
5月の微風に濡れた服をさらした
波がひっそりと打ち寄せ
岸に体をこすりつける
潮汐の調べのはかなさに
私は心打たれた
カモメが舞い上がり
瀬戸内の狭い海峡を
忙しく大型船が行き交う
いつもの場所に
いつもの岬を突き出して
淡路島が浮かんでいた
あれだけ多くのいのちを奪いながら
海も潮風も空も船も何も変わらない

まだ生乾きの服のまま
私は町に戻ろうとする
海の家を建てる工事がはじまり
ペンキのはげかかった柱に
青い色を塗りなおそうとしていた
海は鳴き砂を隠している
風はだれにも背中を見せない
空は雨で絵の具を溶き
時には虹をでっかく描く
私の服はやがて乾くだろう
変わるもの 変わらないもの
それぞれの流れ雲が交錯し
新しい季節が招きよせられる

明日の訪れは間違いなかろうが
未来はペンキの匂いのように
ただ懐かしいだけだ

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