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「世相 2015-2016」 199501170546-2 一ばん小さな海

「199501170546-2」

寺山修司には「わたしのイソップ」という詩がある
   肖像画にまちがって髭を描いてしまったので
   仕方なく髭を生やすことにした

   門番を雇ってしまったので
   門を作ることにした
   
   一生はすべてあべこべで
   わたしのために墓穴を掘り終わったら
   すこしくらい早くても
   死ぬつもりである 

地震が怖いという理由で
東京から神戸に移住してきた男がいる
その半年後に阪神大震災が起こり
倒壊した家屋に押しつぶされ彼は死んだ
東京に残してきた家族に代わり
私は友人の救出を引き受けたが果たせず
納棺まで行い家族にゆだねた 
瓦礫をかきわけ彼を探すあいだ
私の頭には高校で習った英語の一文が
繰り返し浮かんでいた
I'll go to the hospital today.
ロンドン訛りについての学習だった
   ロンドンの下町では「a=エイ」を「ai=アイ」と発音する人がいます
   だから「taday」は「トゥデェイ」でなく「トゥダァイ=to die」
   ロンドン訛りなら「私は死ぬために病院に行った」となるのですね
He came to Kobe to die(彼は死ぬために神戸に来た)
これが彼のイソップ物語なのかもしれない

彼が神戸にやってきたのは
震災の6ヶ月ばかり前である
近所の居酒屋で顔を合わすうちに
日を追って親しくなった
パズルとクイズが好きという以外
私は彼の多くを知らない
日本では珍しいムスリムとわかったのも
告別式が終わってからであった
彼は大阪の南に軽トラックで運ばれ火葬された
ムスリムでは火葬がタブーのはずだった
遺体の屈曲が激しく
仰向けに納棺できず
私は横向きに寝かせて棺に収めてしまった
これもムスリムで禁忌行為ではないのか
地震を逃れてきたつもりが
先まわりした運命に不意打ちをくらい
死後のたましいの落ち着き場所を
打ち明ける間もなかった彼は
冥府をさまよったままかもしれない

災害の規模が大きくなればなるほど
偶然は暴発し
原因と結果の磁気が乱れ
そこここであべこべが生じ
人の悲しみを深くする
同じ詩で寺山はこうも歌った
  なみだは
  にんげんの作る一ばん小さな海です
死ぬために神戸に来たある男の悲運に
私は一ばん小さない海の前にたたずみ
無力にうなずくだけである。

 
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