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「世相・2015ー2016」 199501170546-1 発芽せよ種子たち

「199501170546-1」

トラックが校庭に入ってくると
遺体安置所になった理科室から
我先にと遺族たちが駆け出してくる
バーゲン会場でセーターを引っ張り合うように
ひとつの棺にかかるいくつもの手
熱気もたけだけしさもない無言の反目
首尾よく棺を得たものは
後ろめたい安どの表情とともにその場を去る
そしてお前はいつものように奪う手を緩め
争いから身を引いてしまう
お前を襲うすっぱい自己嫌悪
   自分の子どもを弔う棺なら
   相手を跳ねのけてでも奪いとったか
   いやそんな場合ですら
   お前はいざこざに深く関わるまいとしただろう
   
死には形が与えられなければならない
突然見舞われた災難に
あつらえ向きの死の形などあろうか
落ちてくる天井を避けようとよじったからだ
逃げ道の扉に手をかけたたまま凍りついた最期
驚愕のあまり上半身を丸めたり
天をにらんで悲運を抱きしめたり・・・
ポンペー遺跡から見つかった
授乳中の母子のような死の形もあったに違いない
これらの多様な線で描かれた死が
直線でかたどられた寝棺に収まるはずもなく
遺体安置所のあちこちで
残されたものたちと死の形の格闘が続いた

お前は左肩を下に横死した友だちを見る
2日間瓦礫に埋もれていた遺体は
激しく丸まったまま硬直している
からだを伸ばすことも
顔を理科室の天井に向けることもかなわず
行き倒れた浮浪者のように
土壁にまみれた苦しげな横顔を見せ
彼は直線で描けなかった死を受け入れている
手をつないだままピアノの下敷きになった夫婦
   三途の川を渡るときにも絶対手を離すでねえぞ
臨月の妊婦の腹に押し返され蓋ができない棺
   ああ神様 なんで赤子だけでも目こぼししてくれなかったか・・・
お前は周りの凄惨な空気と悲嘆を棺に封じ
友を残して遺体安置所を後にする

小学校の校門を出たところで
町に電気が戻ってきた
街灯に明かりがつき
町を光の伝言が駆け巡っていく
お前は心によどんだ死の空気を吐き出し
暗闇から町が救い出されるさまを
あきることなく眺め続ける
1本の街灯の下に立ち
お前は光を仰ぎ見る
棺の奪い合いを諦めた腕の感触がよみがえる
   この町に留まろう
   この町から逃げず
   この町と共に生きよう
お前は身内でそっとつぶやく

ポケットに手を入れると
何か硬いものに当たる
遺体安置所でボランティアがくれた
にぎり飯の梅干の種
お前は瓦礫に向かってそれを放り投げる
   発芽せよ種子たち
おずおずと光を受け入れた町に向かって
お前は声に出し言ってみる
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