fc2ブログ

ヒマな実験

私は数秒で眠りに落ちる。
そしてすぐに目が覚める。
スポーツをやりすぎ持病になった
頸椎ヘルニアが
私の眠りを妨げるのである。

また体力の回復が早く
一眠りで元気を取り戻すことも一因だろう。
かくして一度目覚めると
次に寝付くのが少々やっかい。
これも不眠症の一種なのだそうだ。

そんな眠れぬ夜に
修業と称して
私はいろいろな実験を楽しむ。
ときにはそれが偉大な(?)発見につながったりもする。

先夜の体験はスゴかった。
私は<わたし>という主体が
どのようにすればなくなるかの実験をした。

<わたし>の居場所として
私たちが想像するのは
なぜか頭-目-鼻-心臓-へそ-性器を結んだ
体の中心線上である。
そこで私は<わたし>の居場所を
田舎というか 地方というか 辺境というか
手の指の先やら 踵 右肩 尻 腰骨 ヒザなどに移し
それぞれで<わたし>の機能がどう変わるか
試してみたのである。
結果はかなりおもしろかった。

この実験の成果を正しく受け取ってもらうには
足の親指が<わたし>として
思考する様を想像してほしいと思う。
あるいは尻が沈思黙考する様子を。

中心線上にいると仮定する<わたし>と
指先にちょこんと座った<わたし>には
確かに大きな違いがあった。

容易に推測がつくように
中心線の<わたし>は
我か強く 支配的で 押しつけがましい。
それに対して
足の親指に止まって思考する<わたし>は
夢の中の主体がそうであるように
自他が曖昧で
他と入り混じり
まるで酔っているように
麻薬をやってるように
集合性に向かって開き
厳格な一貫性はなく
暗喩が呼び起こす
ほのかな全体感で結ばれ
言葉は<わたし>の中から生まれるというより
主体を離脱した古い記憶の言葉が
<わたし>に憑依するという感じなのである。

私は可能な限り<わたし>を無にした
夢の中のつぶやきのような
酔ったり ラリっているような
文体を発見できれば
どんなに楽しい小説が書けるかと夢想した。
その妄想によって我欲が蘇り
その夜の実験は失敗したのだけれど・・・。

どうしてこのような
ヒマな実験を思い出したのか。
月曜日に首都圏のある町を
出張で訪れたからだ。
バスに揺られながら
車窓の光景を見ていたときに
東京近郊の地方都市は
どうしてこうもいじけているのか
という疑問が浮かんだ。

答えは簡単だった。
わたしのヒマな実験に照らせば
関東の地方都市は
中心線上の我の強い東京に
骨の髄まで文化を吸い取られ
東京の支配を逃れるために
膝小僧や肩胛骨で思考する方法を
決定的に失っているため
あのようにいじけているのだ。

このとき私の念頭には
大阪が中心になって進めようとしている
副都心構想なるものがあった。
それぞれが個性豊かななまま
文化の軽重をつけず
互いを敬っている近畿地方の豊かさを
東京を真似た中心線で解体する案など
議論する余地もないほど
愚かな考えである。

どうせ副都心を作るなら
日本の肩胛骨のような位置にある
東北地方の再建として構想するほうが
どれだけいいかわからない。
政治の中心を東北に置き
国会や内閣、各省庁をそこに移せば
東北の復興を少しはまじめに考えるであろうし
原発を国策にするとは
口が裂けても言わないはずだ。

人の死と犠牲の上に成り立った繁栄を
根本から見直すには
この副都心構想は案外イケている。

東北の副都心に
どの機能を移すか
私はヒマな実験をして
今夜も眠れぬ夜を
楽しむとしよう。





スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する