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「世相2015-2016」 ずっとあったもの

「ずっとあったもの」

灯りのない部屋のなつかしい明るみと
火影がまばらな薄暮が競り合うころは
うとうとした気分になり
生きている証のようなものが欲しくなる

部屋ではネコが寝そべり
本棚の中では家族の写真が
ひっそりと息をし
みんなで囲む食事の席がある

母子家庭なので豊かな食卓とは言えないけど
旬の野菜が丁寧に料理され
やさしい味付けが
行きかう言葉まで穏やかにする

笑いがあり
小さな悲しみが部屋の隅にうずくまり
ときには怒りがあっても
いたわりがすべてをおおっている

家を離れればそれぞれが自分の世界を生きている
霧が晴れていく港を見下ろし恋をささやいたり
原生林に分け入って寝袋の中で朝を迎えたり
モーツアルトを聞きながらカフェでコーヒーを飲んだり

しかし家に帰れば
裾の縮んだ着古した服に着替え
それぞれが母の子どもにおさまり
兄になり 姉になり 弟や妹になる

家族が好きなボードゲームが持ち出され
メモ魔ぞろいの必需品
ミスプリント用紙の束と2Bの鉛筆が食卓にあり
調子はずれな鼻歌がどこからともなく聞こえてくる

雨だれを聞きながら本を読むか日記を書く
子どもたちの誰かが
母のへそくりの隠し場所のオルゴールから
小銭を拝借するたびに「ホフマンの舟歌」が鳴る

これらはずっとあったもの
昔からあったもの
母親が使っていた水虫の薬のように
それぞれの肌に染みついた家族のにおい

手と目と鼻と耳に馴染んだ
このようなものほどゆかしく感じられ
心を浮き立たせ
生きてきた証だと思える

ああ、戦争とは人間と学校と森を破壊するばかりでなく
このような穏やかな日常まで奪いつくしてしまう
うるわしい営みを荒廃させる暗いさざなみへの抵抗が
夕べの祈りのように静かに立ち上がるといい

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「世相 2015-2016」 かくれんぼ

「2015-2016 世相」 かくれんぼ

どこかの老人ホームで
治療目的のかくれんぼを取り入れた
いざはじめてみると
高齢者には「かくれる」「さがす」が
意外にむずかしいとわかった
かくれるものは「子」と呼ばれ
さがすものは「オニ」である
自分でありながら
別の役を遊ぶというのも
一筋縄でいかない
だから「子」が「もういいかい」と呼びかけ
「オニ」が「まあだだよ」と答えることもまれでない

年寄りたちはてんでに身をかくし
いつもの静寂とちがう
張りつめた廊下のまんなかを
ひとりの「子」が
悠然と横切っていくことだって起こる
まるで幼い日の幻のように・・・
「子」を目で追いながら
「オニ」は「みいつけた」とも言わずに
歩み去る日々を笑顔で見送っている

部屋に戻ってしまったじいさん
かくれ場所で眠り込んだばあさん
オニごっこと間違えたか
近づくオニから逃げるばあさん
かくれんぼは成立しないけれど
どの顔にもわらべ歌が響いている
   かくれんぼするものよっといで
   ジャンケンポン 
   あいこでしょ
   もういいかい
   まあだだよ

彼らにはもはや
実人生ではかくれる必要も
見つけだしたいものもないかもしれないけれど
子どものころの遊び場所をみつけ
落ち葉のにおいのするその小暗い秘密の片隅に
老いの避難所を築きたいのかもしれない

不確かな未来に
「オニ」が呼びかける
「もういいかい」
なつかしい未来の「子」が答える
「もういいよ」
わらべ歌から「子」が生まれ
わらべ歌に「オニ」が還っていく

「世相 2015-2016」 199501170546-4 声

「199501170546-3 声」

お前は確かに聞いていたはずだ
地震がおさまり
生き埋めになったものを救いださんと
素手で瓦礫に挑みはじめたときから
だれもが耳にしていた言葉
数人で組になり印半てんをまとった
地元の消防団員が通りかかるたびに
お前はそでを引かんばかりに協力を求めた
   だめならせめてそのスコップでも貸してもらえませんか
相手は同じ言葉で応じる
   声は聞こえていますか
   生きている人優先です
あいまいに口を閉ざしたお前を残し
彼らは立ち去っていく
救える命のもとへ・・・

   お父さん 山中先生がタスケテと叫んでいたよ
   ホンマか いつ どこで
   さっき 屋根の下から 苦しそうな声で
もしその会話の主が
お前の手荒い作業ぶりをたしなめた
2階の住人らしい男でなければ
お前は正しい判断を下せたかもしれない
お前は瓦礫と格闘するものたちに向かって
こう声を上げるべきだった
   私の友人は声を発していないようです
   きっと息絶えたのでしょう
   であるなら生きている人優先です
   私の作業は打ち切りますから
   力を合わせてその先生を救い出しましょう
しかしお前は直前に耳にした父子の会話を
怒りにまかせて心から追い出してしまっていた
   1階の押しつぶされた部屋からアイツを助け出すには
   のしかかった2階の屋根瓦を叩き割り
   その下にぎっしり詰まった住人の私物を押しのけ
   他人の所有物と区別を失ったアイツの荷物も放り出し
   このまま掘り進む以外に方法があろうか
生きているかもしれない不確かな光明にあおられ
お前はことさら力を込めて救出作業にこだわった

お前が我にかえったのは
ふとんから突き出た友人の手首を見たときだった
お前の心よりなおいっそう白く凍りついた手
その手は子どものころに習った
指で電気の流れる方向を見つける形のまま
いのちを静止させていた
お前の心の中には別の声があった
   いいえ あなたたちは知っていたのです
その昔ニュースフィルムで見た
アウシュビッツの悲劇
私たちは知らなかったと言いのがれるドイツ人を
告発するユダヤ人の声だった
   いいえ あなたたちは知っていたのです
その声と重なり隣人の生存を父に訴える
子どもの声がお前の心を満たす
   お父さん 山中先生がタスケテと叫んでいたよ・・・
お前は確かに聞いていた
救える命がお前の目前にあったのだ

  



   

「世相 2015-2016」 199501170546-3 火事

「199501170546-3 火事」

火の手が上ると
人は空の一角を見上げ耳をすます
そこから消防車が駆けつけると思っているように
厚い雲に手を突っ込みサイレンの音を
地上に引き下ろそうとでもいうかのように
多くの場合予想通りにことが運ぶ
空を渡ったサイレンは火事場に降臨し
半鐘に導かれ赤い車が集結する

1995年1月17日午前5時46分
地震直後に住宅街の真ん中で火事が起こった
非常を知らせるサイレンは黙したままで 
いつまでたっても消防車の現れる気配もない
震度7の揺れがすべてのものの口をふさいだのか
人も鳥も樹木も自動車もビルも
大地の無骨な一撃に言葉もなくひれ伏する
美しいまでの無音の中
火だけが炎上の宿運を受け入れ
自足して燃えていた
だれも騒がず
だれも叫ばず
喉の奥に潜むのはありきたりの恐れ
家ガ燃エテイル 家ガ燃エテイル

遠い森の大火のように
人を寄せつけず
消火の浅知恵をしりぞけ
延焼に興味を示すこともなく
自らの意思と義務に従い
火は純粋に燃え盛っている
目路はるか陸続と瓦礫に埋まり
倒壊した家屋の中から
心うつろな住民がようやく姿を見せはじめる
されど消火活動に手をつけるでなく
映画の大火災のシーンを見るくらいの驚きで
被災者は燃える1軒の家を取り囲む
火災現場にくるほど余裕がある人の間で
バケツリレーがはじまり
特別な日にも変わることなく
朝の準備をする空があわただしく動きだす

火事場になじまない
軽快で陽気なリズムが突然聞こえてくる
音のほうに注意を向けると
10歳くらいの少女が燃え上がる家の前で
縄跳びをしている
背中でポニーテールが跳ね
黒いまつげの間の瞳に
小さな火の色を宿し
何かをつぶやきながら少女は無心に縄跳びをする
何もかも萎縮した被災地にあって
少女が縄で作り出す円は
太陽をすくい取り
風を呼びよせ
春の予兆を芽吹かせ
そこにだけ息吹あふれ
いのちの水流れ
屈しない若くやわらかい精神が
ジャンプしている

そのときうすい皮膜を破り
新たな太陽が顔を出した
少女は日の出には目もくれず
家から持ち出せた唯一の宝で空に輪を描き
その中を潜り抜けていく

「世相 2015-2016」 199501170546-2 一ばん小さな海

「199501170546-2」

寺山修司には「わたしのイソップ」という詩がある
   肖像画にまちがって髭を描いてしまったので
   仕方なく髭を生やすことにした

   門番を雇ってしまったので
   門を作ることにした
   
   一生はすべてあべこべで
   わたしのために墓穴を掘り終わったら
   すこしくらい早くても
   死ぬつもりである 

地震が怖いという理由で
東京から神戸に移住してきた男がいる
その半年後に阪神大震災が起こり
倒壊した家屋に押しつぶされ彼は死んだ
東京に残してきた家族に代わり
私は友人の救出を引き受けたが果たせず
納棺まで行い家族にゆだねた 
瓦礫をかきわけ彼を探すあいだ
私の頭には高校で習った英語の一文が
繰り返し浮かんでいた
I'll go to the hospital today.
ロンドン訛りについての学習だった
   ロンドンの下町では「a=エイ」を「ai=アイ」と発音する人がいます
   だから「taday」は「トゥデェイ」でなく「トゥダァイ=to die」
   ロンドン訛りなら「私は死ぬために病院に行った」となるのですね
He came to Kobe to die(彼は死ぬために神戸に来た)
これが彼のイソップ物語なのかもしれない

彼が神戸にやってきたのは
震災の6ヶ月ばかり前である
近所の居酒屋で顔を合わすうちに
日を追って親しくなった
パズルとクイズが好きという以外
私は彼の多くを知らない
日本では珍しいムスリムとわかったのも
告別式が終わってからであった
彼は大阪の南に軽トラックで運ばれ火葬された
ムスリムでは火葬がタブーのはずだった
遺体の屈曲が激しく
仰向けに納棺できず
私は横向きに寝かせて棺に収めてしまった
これもムスリムで禁忌行為ではないのか
地震を逃れてきたつもりが
先まわりした運命に不意打ちをくらい
死後のたましいの落ち着き場所を
打ち明ける間もなかった彼は
冥府をさまよったままかもしれない

災害の規模が大きくなればなるほど
偶然は暴発し
原因と結果の磁気が乱れ
そこここであべこべが生じ
人の悲しみを深くする
同じ詩で寺山はこうも歌った
  なみだは
  にんげんの作る一ばん小さな海です
死ぬために神戸に来たある男の悲運に
私は一ばん小さない海の前にたたずみ
無力にうなずくだけである。

 

「世相・2015ー2016」 199501170546-1 発芽せよ種子たち

「199501170546-1」

トラックが校庭に入ってくると
遺体安置所になった理科室から
我先にと遺族たちが駆け出してくる
バーゲン会場でセーターを引っ張り合うように
ひとつの棺にかかるいくつもの手
熱気もたけだけしさもない無言の反目
首尾よく棺を得たものは
後ろめたい安どの表情とともにその場を去る
そしてお前はいつものように奪う手を緩め
争いから身を引いてしまう
お前を襲うすっぱい自己嫌悪
   自分の子どもを弔う棺なら
   相手を跳ねのけてでも奪いとったか
   いやそんな場合ですら
   お前はいざこざに深く関わるまいとしただろう
   
死には形が与えられなければならない
突然見舞われた災難に
あつらえ向きの死の形などあろうか
落ちてくる天井を避けようとよじったからだ
逃げ道の扉に手をかけたたまま凍りついた最期
驚愕のあまり上半身を丸めたり
天をにらんで悲運を抱きしめたり・・・
ポンペー遺跡から見つかった
授乳中の母子のような死の形もあったに違いない
これらの多様な線で描かれた死が
直線でかたどられた寝棺に収まるはずもなく
遺体安置所のあちこちで
残されたものたちと死の形の格闘が続いた

お前は左肩を下に横死した友だちを見る
2日間瓦礫に埋もれていた遺体は
激しく丸まったまま硬直している
からだを伸ばすことも
顔を理科室の天井に向けることもかなわず
行き倒れた浮浪者のように
土壁にまみれた苦しげな横顔を見せ
彼は直線で描けなかった死を受け入れている
手をつないだままピアノの下敷きになった夫婦
   三途の川を渡るときにも絶対手を離すでねえぞ
臨月の妊婦の腹に押し返され蓋ができない棺
   ああ神様 なんで赤子だけでも目こぼししてくれなかったか・・・
お前は周りの凄惨な空気と悲嘆を棺に封じ
友を残して遺体安置所を後にする

小学校の校門を出たところで
町に電気が戻ってきた
街灯に明かりがつき
町を光の伝言が駆け巡っていく
お前は心によどんだ死の空気を吐き出し
暗闇から町が救い出されるさまを
あきることなく眺め続ける
1本の街灯の下に立ち
お前は光を仰ぎ見る
棺の奪い合いを諦めた腕の感触がよみがえる
   この町に留まろう
   この町から逃げず
   この町と共に生きよう
お前は身内でそっとつぶやく

ポケットに手を入れると
何か硬いものに当たる
遺体安置所でボランティアがくれた
にぎり飯の梅干の種
お前は瓦礫に向かってそれを放り投げる
   発芽せよ種子たち
おずおずと光を受け入れた町に向かって
お前は声に出し言ってみる
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